能登智彦
西日本豪雨で大きな被害を受けた広島県呉市安浦町の市原(いちばら)集落で、土石流があった現場近くに住民が桜を植えている。豪雨前に暮らしていた24世帯に合わせた24本を植える計画で、現在9本になった。春には小さな花を咲かせるようになり、住民らは復興を願いながら育てている。
市原集落では2018年7月6日から7日にかけて大規模な山崩れが起き、土石流が民家や田畑を襲った。3人が死亡し、道路が寸断された集落は一時孤立し、多くの住民がヘリコプターで救助された。当時24世帯、約60人が住んでいたが、復旧の金銭的負担や後継者不足などで現在は12世帯、約30人に半減した。
桜の苗は、土砂のかき出しのボランティアに来た静岡県の団体から、毎年呉市などを通じて自治会に届き、豪雨から1年後に7本、2年後に3本を住民所有の土地に植えた。残念ながら1本が枯れたが、住民は水や肥料を与えるなど世話を欠かさない。まだ高さ1~2メートルだが、今春も小さな花を咲かせた。大木に育ってたくさんの花が咲くのはまだ先だが、毎年桜を眺めることができれば、災害のない平和な日々が続いている証しになると、自治会では考えている。
中心メンバーの農業、中村正美(まさみ)さん(71)は被災の直前に自治会長になり、被災後は自費でダンプカーを購入するなどして、妻玉恵さん(55)とともに復旧を進めてきた。「少しずつ植樹し、丈夫に育ってほしいと祈りながら世話をしている。いずれ満開の桜のもとに住民が集まって絆を深めたい。慰霊の場であり、憩いの場にもなってほしい」と話す。
被災から3年となる6日には、自治会メンバーらが桜の木の近くに集まり追悼行事を行う予定。(能登智彦)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル